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千夜子-4

 一つ目の暗号はなんなく看破。
 暗号というにはお粗末な、あまりに安易すぎる答えを前に私は躊躇ってしまう。
 きすにもも。
 これが〈桃にキス〉なら〈桃〉=〈ビッグピーチ〉=〈桃尻〉で「Hey! Kiss my ass!!」ってなわけで挑戦状!? ぬぬぬーとかなるんだけど、私が導き出した言葉はもっともっと安直ストレートで多少面食らう。
 それは正に出来すぎのお誂え向きな物語でその主人公は私。そして、零人だ。
 私の中で少しだけ期待していた展開を「はいどうぞ」と用意されていたようで、これはミスリードなんじゃないかと深読みしたくなるけど私はしない。現時点では、しない。
 ここまでの情報と提示された答えを私は鵜呑みにする。現時点で指し示されている全てを〈正解〉と位置付ける。
 でも私はそれらを鵜呑みにしてるだけで決して飲み込まない。今ある〈正解〉が〈不正解〉でもそれは完全な〈不正解〉ではない。それを〈正解〉として盲信/消化してしまう前に新しい情報をどんどん飲み込んで溜め込んで吐き出す。間違っていた情報の消去と新たな情報のインプット。そこからまた必要な情報だけを選んで飲み込んで溜め込んでいく。
 その作業の繰り返しを私はちゃっちゃ、ちゃっちゃと行う。チャッチャ、チャチャチャチャチャ鵜!
 思考の脱線は気分の高揚が生み出す。それが悪ふざけに発展しないように私はひとつ息をついてキーボードに目をやる。
 パソコンのキーボードには大抵左上に英字が、右下にひらがなが表記されている。これはローマ字入力とかな入力それぞれに対応して配置された文字列である。
 きすにもも。
 仲村由里音からのメールにはそう書かれていた。
 これはかな入力で打たれた言葉だ。〈き〉の左上には〈G〉が配置されている。同じように〈す〉には〈R〉、〈に〉には〈I〉、〈も〉には〈M〉が配置されている。
 私はローマ字入力に切り替えて〈きすにもも〉と打ち込む。
 画面にはこう表示されている。

 GRIMM

 そう、グリム童話のグリムだ。

01.jpg

 これが私を面食らわせた安易かつ安直な答え。
 お菓子の家への招待状とメールから浮かび上がった〈GRIMM〉。このメールが仲村由里音から送られたのか違う第三者が仲村由里音のメールアカウントを介して送りつけてきたのか。そんなこと今は分からないし、どちらでもいい。
 ただGRIMMによって生み出されたヘンゼルとグレーテルはお菓子の家を探し出す。これが二つの符丁の符合から導かれた現時点での〈正解〉であろうことは間違いない。そしてこれが今後〈正解〉となるか〈不正解〉に転がるかは分からないけどどうせならポジティブに捉えるべきなのだ。
 ここにヘンゼル役の零人はいない。
 私が赤尾煙草店でタバコガールをしている時にブーツをガンガン鳴らしながら階段を降りてきた零人は「ちょっと出て来る」とだけ告げたまま戻っていない。
 もう一度零人の携帯を鳴らしてみる。
 プ、プ、プ、プ、プ、トルルルル、トルルルル、トルルルル、トルルルル、トルルルル。
 私は携帯をしまって立ち上がる。
 そしてこの物語を私ひとりで立ち上げる。
 零人が電話に出ない/出れないということは今はまだ零人は〈不必要〉であるということなのだ。
 私は車のキーを手に取ってノートパソコンをバッグに入れ、事務所を出て『外出中』の札を掛けて階段を降りる。
 どうも私の頭の中にいつもの屁理屈思考が充満していて物事をわざわざ複雑に考えているようだ。
 店を覗くと赤尾のばあちゃんはまだ戻ってないようだ。私はそのまま店の裏手に停めてある愛車bB(通称ベベ子)に乗り込み、エンジンをかける。
 夜の闇が次第に天海町を包み込もうとしている。
 私はアクセルを踏み込んで走り出す。カーステレオから流れ出したスカのリズムはオープニングテーマに相応しい喧騒でわめき散らしている。
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