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零人-17

「予てより皆様にご尽力いただいておりました”お菓子な家”が先日遂に完成の運びとなりました。
 つきましては当お菓子な家にて落成記念式典を開催致したく、ご招待状をお送りさせていただきました。
 貴方様の御来場を切に願っております。
 あなたの思う場所で、あなたの思う時間にて・・・」
「・・・」
 零人は、己の突然の行動にポカンとした顔をしている八文字を見下ろし「ね。空で覚えているでしょ」と、何処と無く自慢げに言う。
 八文字は、ポカンとしてしまった事が酷い失敗であったかの如く、慌ててその表情を零人を訝しむそれに換える。
「記憶力、良いんですね」
「まぁ、探偵ですから」
 零人は再度ソファーに座り直し答える。
「そうでしたね。名探偵チョコレートですものね」
 八文字が少し揶揄う様な口調でそう言うと、零人はまるで揶揄われている事には気付いていない風を装い、真顔で「正確には、チョコレートではありません・・・今は、ただの零人です」と首を振った。

「さて・・・」
 少し会話が逸れた。
「さっきの文章、間違いないですか?」
 零人は会話を戻す。
「ええ」
 八文字もそれに従う。
 答えを知りたいのは零人だけではないと言う事。
 とは言え、二人の知りたい答えは遠く離れた二点の場所にある。今、二人の思いが同一方向に向いているのは、たまたま、偶然に二人の進行方向が重なったに過ぎない。
 だが、それでもとかく脱線しがちなこの物語を少しでも正しい道順で進める為には、それは十分な助け。
「そうですか・・・」
 零人は続ける。
「本当に間違いありませんか?」
「ええ」
「いや、念の為、もう一回読みましょうか?」
「結構です。私もそうそう馬鹿にされたモノでもありませんから。自分で書いた文章位は、ちゃんと覚えてますよ。何なら、私だって空で読める位です。あっ、読んでみせましょうか?」
「いや、それは結構です。大事なのは俺の許に届けられた招待文が、確かにアナタが書かれた物であるかどうか?なんですから」
「ですから、間違いありませんよ。先程から言っている通り、文面も間違いなく・・・」
「本当ですか?」
 零人は故意に、八文字の言葉を遮る。
 そしてもう一度「予てより皆様にご尽力いただいておりました”お菓子な家”が先日遂に完成の運びとなりました・・・」
 八文字はいい加減呆れ顔。
「しつこいですよ」
「分かってます。しつこくしているんですから。でも、もう一度、きちんと聞いてください。これは大事な事なんですから・・・予てより皆様にご尽力いただいておりました”お菓子な家”が・・・お菓子『な』家・・・ですよ」
「・・・え?」
「ですから、おかしな家です」
「・・・」
「まぁ、確かにここは、おかしな家ですよね・・・家と言うより、俺にはただの雑居ビルのワンフロアにしか見えませんが。ここに案内してくれたあたなが、ここを家だと言うなら、ここは間違いなく家なのでしょう。ここは間違いなく、おかしな家ですよ」
「・・・」
「ここは、おかしな家で間違いないですよね?」
「・・・」
「違うんですか?」
「・・・」
「では、あなたはここを何処だと・・・まさか、本当にお菓子の家だと?」
「・・・」
 八文字は言葉を発しない。
 キョロキョロと目玉が動く、その目玉に連動する様に頭が揺れる。
 八文字は何か言いたそうに口をパクパクさせるが、そこからはパッパッ・・・といった、唇の開閉の音しか聞こえない。
 激しい動揺の表れ。
 だから言ったんだ・・・平静でいれる訳がないって。
 だが、壊れるにはまだ早い。お前は、お前の答えが朧ながらにも見えたのかもしれないが・・・俺の答えはその先の先にある。だから、まだ、壊れられては困る。お前には、今から俺の答えへの掛橋になってうのだから。
 パン。
 零人は催眠術師のそれよろしくに手を打つ。
 ビクッ。
 八文字は催眠から解かれた人のそれよろしくに、目をしばたかせ零人を見る。
「まだ、早いですよ。ほんのサワリじゃないですか」
 零人は八文字の顔を深く覗き込む。
「では・・・」
 零人は意味もなく間を作る。
「聞きます。赤尾マスを殺したのは、あなたですね?」
「・・・」
 八文字が頷く。
「ちゃんと、声に出して下さい。恥ずかしがる事はない。後ろめたさを感じる事もない。俺は、別にあなたを責める気はないんですから。これは、単なる答え合わせなんですから」
「・・・はい」
 八文字は、もう一度頷き、小さな声で答える。
「探偵事務所で、俺を襲ったのもあなたですね」
「はい」
 八文字が小さく頷く。零人はそれを確認すると、大きく頷く。
「はい。それ等は大前提です。では、それ等を踏まえて、細かく答え合わせをしていきましょう」
「・・・」
 八文字は酷く心細い表情をしている。
 それもそうだろう。
 今しがた八文字に見えた答えは朧だが、それでも、八文字の常識を覆した。八文字をひっくり返した。
 なのに・・・なのに、この探偵は、その朧な答えの細部の輪郭までを浮き彫りにしようとしているのだ・・・。
 私はその浮き彫られ、輪郭を明確にした答えに耐えられるのだろうか・・・。
 八文字アリスの思考が手に取る様に分かる。
 手に取る様に分かったから、思う。
 耐えれやしない。
 恐らく、八文字アリスは壊れるだろう。
 身も心も壊れるだろう。
 物理的に精神的に壊れるだろう。
 だが・・・。
 仕方がない。
 俺には救えない。
 八文字アリスはそれだけの事をしたのだから。
 八文字アリスは、そうなる為にここにいるのだから。
 仕方がない。
 零人は「では・・・」と、始める。
 はっ、と八文字が顔を上げる。
 縋る様な顔。
 零人はそれを無視して八文字に言う。
「今から、俺は俺の出した答えを話します。あなたはそれに○×を付けて下さい。良いですか?」
 八文字は縋る様な顔のまま答えない。
「良いですか?」
 もう一度零人が聞くと、八文字は観念した様に「・・・はい」と答えた。
 零人が八文字と出会ってから、一等に小さな声だった。
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