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零人-14

 零人はチラリと運転席に視線を向ける。
 これで、このライトバンに乗り込んで五度目。
 あまりジロジロ見るのも失礼かと配慮しての盗み見、チラ見だが・・・むしろ、結果的には逆にいやらしく失礼な行為になっている。
 運転手は三十歳に届くか届かないか程度の極端にタイトなスーツ姿の女・・・と思う。
 髪の毛は真っ直ぐな黒髪を胸元迄伸ばしているし、その髪の毛の掛かる胸だって、主張しない程度には膨らんでいる。
 その事から、女性だろうと零人は判断した。
 が、運転席に座っているので、あくまで座高を基準にした予測でしかないが・・・裕に180センチは越えているだろう身長と、お世辞にも美しいと言えない、現代人よりも寧ろ原始人に近い横顔が、零人にその判断を躊躇させている。
 六度目。
 これで決めよう。
 このチラ見を最後に、この運転手が『長身で原始人の様な顔の女性』か『綺麗な黒髪の乳腺の少し張った男性』かの判別をしよう。
 チラリ・・・。
 零人が運転手に目を向ける。はたと、運転手と目が合う。零人は咄嗟に視線を反らす。
 しまった!気付かれてたのか!?
 確かに、それはそうだろう。俺がこのライトバンに乗り込んで、まだ何十分も経っていないのだ。その間に五度も六度もチラ見されれば、流石にどれ程鈍感な人間でも気配の一つ位は感じる。
 しかし、正面顔が見れた。これで核心が持てた。答えは後者、この運転手は綺麗な黒髪の乳腺の少し張った・・・。
「何か?」
「えっ?」
「何か質問でも?」
「・・・」
 零人はその声を聞き、即座に自分の答えを覆す。
 この運転手は『長身で原始人の様な顔のくせに澄んだ涼やかな鈴の様な声を出す女性』だと。
「あっ、いや・・・」零人は一瞬口ごもり「あの・・・この車、凄い静かですね。ガソリン車ですか?」と咄嗟に思い付いたにしては、何とも珍妙な質問をした。
「ええ、普通のガソリン車ですよ」運転手は、それが何か?と言いたげに答える。
「へぇ・・・僕はてっきり、あんまり静かなもんで、電気自動車か何かかと・・・」
「メンテナンスが行き届いているんですよ」
「へぇ・・・」
 話が続かない・・・が、チラ見のごまかし程度の会話にはなった・・・だろうか?
「へぇ・・・ガソリン車なんだ・・・ふぅん・・・静かですねぇ・・・」零人はそう繰り返し呟くと、ライトバンの進行方向に目を向ける。
 すると「あの・・・」と運転手が話し掛けて来る。
 零人はわざと視線を進行方向から動かさず、運転手の顔を見ない様に「はい?」と返事をする。
 こうして声だけを聞いて会話をしていれば、まるで何処かの財閥のお嬢様とドライブでもしてる気分になれる。
 これ又、失礼この上ない話ではあるのだが・・・。
「私、少し運転に集中したいので、もし、何か他に聞きたい事がある様でしたら、もう少し待ってからにして頂けますか?もう後、それ程経たずに到着しますから」
 赤信号でライトバンが止まる。又走り出す。そのエンジン音は、クラッチを繋ぐ瞬間に一瞬「ムォン・・・」と、ほんの小さな唸りが聞こえる程度。洒落ではなく、本当に殆ど無音と言っても良い。
 零人の頭にふと、例の招待状に同封されていた手紙の文面の一部が浮かぶ。その文章はしっかりと覚えている。

『・・・貴方様の御来場を切に願っております。
あなたの思う場所で、あなたの思う時間にて・・・』

 零人の唇の端がクイッと曲がる。無意識に笑っていた。
 聞きたい事なんてない。だって、これは初めから分かっていた、予定通りの出来事なのだから。
 運転手がチラリと零人を見る。眉をひそめ何かを言おうとする。が、何も言わずに運転に意識を戻す。
 零人のクイッと曲がった唇から「クククッ」と、恥ずかしがり屋の雨蛙の鳴き声の様な小さな音が洩れる。
 運転手は又チラリと零人を見る。が、直ぐに意識を運転に戻す。
 零人は軽く目を閉じる。
 あなたの思う場所に、あなたの思う時間に、とはつまり、あなたの思う場所へ、あなたの思う時間に、迎えに行きます。という事。
 要するにあの招待状は、招待状と銘打った誘拐状だったという事・・・って、誘拐状なんて言葉聞いた事ねぇし。
 零人は自分で自分にツッコミを一つ入れて・・・訂正。
 誘拐予告状だ。
 まぁ実際、あんな手紙を受け取ったらどんな奴だって、十中八九常に頭の中にはその手紙の事が引っ掛かってるだろうから・・・何時何処でだって、手紙の受取人にしてみれば、思っている場所で思っている時という訳だ。
「クククッククックククククク・・・」
 何時か何処かであなたを掠います。寧ろ、何時でも何処でもあなたを掠えます。か・・・。
 それにしても、予告状を出してから一体何ヶ月掛かってんだ。トロ臭い・・・。
「ククククククッククッ・・・」
 そこで、漸く零人は自分が笑っている事に気付き、軽く咳払い「失礼」と、頭を下げた・・・キキーッ!・・・姿勢のまま前方につんのめる。
 急ブレーキ。
 シートベルトをしてなければ危うく大怪我だ。
 文句の一つでも。と零人が運転席に目を向けると、運転手は顔を真っ赤に膨らませ、零人を睨み付けていた。
 その顔を見て、又も零人の唇が歪み笑いが洩れる。堪えると、今度は鼻がヒク付き、肩が震える。
「クフッ・・・ググッフ・・・グフ・・・フフフ・・・クククッフフフ・・・」
 運転手の顔が一層赤く膨らむ。
 その赤が紫に変わった事をきっかけに、パッパッパーン。拳をクランションに叩き付け、運転手が「何ですか?何かあるならはっきり言ってくれますか?」と怒気を露に言う。
 零人は笑いを飲み込む仕種と共に、大袈裟に神妙な表情を作り「じゃあ、取り敢えずこれだけ聞いて良いですか?」
 零人は運転手の返事を待たずに問う。
「あなた、セバスチャンスピーカー卿ですか?」
 零人のその問いに、運転手は何を今更、といった風に「はい、そうです」と答えた。
 ライトバンの車内が零人の大爆笑で溢れる。
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