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千夜子-14

 ぺこちん。
 ぺこちん、ぺこちん。
 ぺこちん、しゅっ、ぬちゃ。
 遠くになんだか音がする。泥の固まりを壁にぶつけているような、何か湿っぽい寂しい音が聞こえてくる。
 すると今度は誰かの声がする。

「いつまで寝てるんだよ、千夜子」

 懐かしい声に私はゆっくりと瞼を持ち上げる。ぼんやりとした視界に映るのは大きな靴底。それは見慣れたテーブルの上、私の眼前に投げ出されたブーツの靴底。尾行になんて到底似つかわしくない音を立てる、ごっつくて傷だらけのブーツを履いているのは一人しかいない。
「お前が眠っている間に地球はぐるんぐるん回ってるし、あらゆる事象はぐるんぐるん動いてんだ」
 そういってブーツの向こうに零人が微笑んでいる。
 そっか。寝てたか。寝てるうちにぐるんぐるんしてんのか。
「そうだ。ぐるんぐるんでびっちゃびちゃだったけど俺が全部片付けておいた」
 そっか。零人がやっといてくれたんだ。そっか。
 って、何を?
「全部、だ」
 全部、ね。
 つうかさ、何で私が思ってるだけなのに返事してくるわけ?
「俺とお前は双子だからだ」
 双子間のテレパシー的な疎通があるってわけ?
「俺たちは双子探偵チョコレート。どこにいたって繋がっている。あの時からずっとそうだったろう」
 零人の言葉は力強くて私はそれまでの違和感をあっさり受け入れるとなんだか安心してくる。
 そこはいつもの私たちの探偵事務所で古臭い革の匂いが鼻をくすぐる。そこでもう一つの違和感が気になってくる。それは私の位置低くね?ってことで、私の目線の高さに零人の靴底があって私は上目遣いに零人を見上げている。
 そっか。私寝てたんだもんね。
 起きあがろうとするけど何だか体に力が入らない。でもまあこうしてしばらくは微睡んでたって構わない。だって私疲れてんだもん。確か色々とくたびれてたんだもん。
「ああ、くたびれたな」
 でもちょっとお腹空いたよ。
「…腹、減るのか?」
 減るよ。何その関心顔は。今日の夕飯なんだろう。ねえ、ばっちゃんは?
「…いねえ」
 またあの集まり行ってんの?
「いねえって。…元からばっちゃんなんていねえ」
 何、言ってんの?
「でも夕飯はある。今日はハンバーグにする。何しろ挽き肉が余っちまって仕方ないんだ。千夜子はそんなんじゃ挽き肉こねれないだろう。だから俺がこねるよ。でもぎっちぎちじゃ駄目なんだよな。うまいこと空気を入れてな、細かいことはよく分かんねえんだけどこねて丸めて焼くんだろ。何しろ挽き肉が余っちまって仕方ないんだ」
 そう言って零人は右手に持った赤色の塊を野球のボールのように左手に投げている。ぺこちん。ぺこちん、ぺこちん。さっきのぺこちんはハンバーグをこねているぺこちんだったのだ。ぺこちんしながら零人の顔は笑っているようにも泣いているようにも見える。
 零人、何があったの?
 声を出そうにもやはりそれは叶わず、喉の入り口にピンポン玉がすっぽりはまっているかのようで声を押し出すことが出来ない。
 零人はそんな私を見ながら手に持った塊を壁に投げつける。
 ぺこちん、しゅっ、ぬちゃ。
 塊が壁をのたうち落ちるのが聞こえる。
「そんなことより単刀直入に聞くけどよ」
 零人がぐいと身を乗り出してはっきりと言う。

「なんで千夜子は生首になってるんだ?」

 パチン。

 意識が戻る。
 そこはやっぱり真っ暗だ。私は真っ暗な場所にいる。きんと冷たい空気を無音が広く支配している。しかし正確には完全に暗闇なわけではなく、どこからかうっすらと漏れる光が微かに床面とそこに転がったそれらを舐めるように照らしている。
 小さな流木のような何かが無数に床面から生えているように見える。次第に目が慣れてくると、それらの姿が徐々にはっきりと見えてくる。
 それらは小さな手や足だ。まるで生えているように床面にきちんと立てられている小さな、子供の手足。胴体もあるようだ。血が流れていたりはしない。単純に取り外したようにきれいなパーツとしての手足が無数に並ぶ世界は異様という言葉では生易しすぎる異様さである。
 そして私は自分の身に起きている違和感にも気がついてしまう。
 叫び声を上げたくなる衝動を必死に堪える。
 そう、それだけは夢でも幻でもなく零人の言った通りだ。

 私の眼下にはすぐに床がある。

 私は生首になっている。

 首だけの私は他の子の手足と一緒にこの床に置かれているのだ。
 突然乱暴な足音が近付いてくる。目の前に立ち止まる『それ』は真っ黒い影でしかない。『それ』は私の前にあぐらをかくと近くに置かれていた『誰か』の胴体を手にし、その臀部に唇を押し当てる。

「キスに桃、か」と笑いながら『それ』は言う。
「ここがあなたの思う場所、あなたの思う時間なんです」

 私は思い出す。
 ここは荼吉尼様の…。
 真っ黒い『それ』がにたりと笑う。

「はじめまして。私がセバスチャン・スピーカーです」

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