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千夜子-13

 雀尊ファイブとは瀬戸内雀尊が講師をしている私塾『寺子屋ジャクソン』に通う女子生徒五人によって結成された、いわば雀尊の私設ファンクラブであり、蒼井琴璃はその中心的存在である。雀尊ファイブにはいくつかの決まり事があるのだと琴璃は言う。

一、抜け駆け禁止。
一、ストーカー行為禁止。
一、学業をおろそかにしない。
一、まあ多少おろそかにはなるだろうけど成績低下は許されない。
一、仮に成績が下がったって友達だし、雀尊ファイブから除名などということはしない。
一、仮に瀬戸内雀尊に特定の恋人がいるようであればその妨害などはもってのほかであくまで雀尊くんは私たちの憧れなのであってそういうスタンスっていうんですか、きちんとわきまえていきたいんですよね。でもやっぱ恋愛の自由って大事だと思うんですよ、ほら相手に特定の、彼女?とか、ふぬ、そういう人がいたからって心変わりっていうか、ふぬべれへるばりんこ…。

「聞いてます?」
 蒼井琴璃の言葉に遠くなりつつあった意識が呼び起こされる。
 やばい。完全に微睡んでいた。まるで一ヶ月の間ぼへ~っとしていたんじゃないかってくらいの寝呆け頭だ。
 私の寝呆け頭は遅れを取り戻そうと琴璃が語った雀尊ファイブの会則をリプレイしてみるけど後半の方はもう意味不明のふぬべれへるばりんこ。私は睡魔を払うように声を出す。
「ごめんごめん、今少しぼーっと…」
「はい? ぼー?」
「あ、いや、ボートピープルって大変だよね」
 何言ってんだろ私。眠気凄まじすぎる。
「ボートピープル? それってあれですか、例のボートで世界一周の…」
 琴璃の話によればボートで世界一周を目指しているお笑いタレントがいるのだとか。きっとその人は暇なんだろう。「世界各地の港で一発ギャグとかするわけ?」「してない感じですよ」。ああ、やっぱり暇なんだ。その人は暇を打ち消したかったんだろうし私は眠気を打ち払う。
 そこから琴璃の話は最近のお笑い芸人やら私の知らない固有名詞を連発しながら大きく脱線していった。でも琴璃の声は耳に心地よくて、話も理解に易くて私は適当な相槌を打ちながら脱線を楽しんでみる。私には女友達と深夜に長電話をするなんて経験がないから、よくまあこんなに話せるもんだと半ば呆れながらも何だかそれが嬉しい。話を聞きながらこの子は相当頭がいいんじゃないかと思う。実際琴璃が口にした第一志望校は県下有数の進学校だった。
 時間を確認しようと思うけど時計が見当たらない。視界の端にはこちらに背を向けて寝息を立てている仲村由基雄が映る。
 ふと影がよぎったかと思うとそれは雀尊で、目の前にティーカップが置かれ紅茶が湯気を立てている。私は雀尊に目で礼をして紅茶を口に含む。不思議な味。これ何ティー?とか思いながらも温かさが喉を通って染みてくる。雀尊は口だけを動かして「おやすみ」と言い、私が小さく頷くとそのままソファの隣で背を向けて横になった。
「話を戻していいかな」
 琴璃の軽快なトークを遮って言う。
「整理したいんだけど、結局友達でいなくなってるのって何人だっけ?」
 琴璃は、全部が全部友達ってわけじゃないんですけど、と前置く。「他のクラスの子とか合わせると五人のはずです。仲村由里音ちゃんと芽久美と、あと名前まではよく分からないけど」
「芽久美ちゃんって子が同じクラスで雀尊ファイブなんだよね」
「はい。神野芽久美。芽久美は家出とかするような子じゃないっていうか、するんなら絶対相談とかあると思うんです。この前だって誕生日一緒にやったばかりだし」
「一緒に?」
「芽久美は先週誕生日でもう十五歳になって私は来週なんですよ。それでまとめちゃえってみんなでカラオケ行ってとかして」
「家出するとかそういう素振りって」
「全然」
「そう。じゃあやっぱり五人は、…そうなのかな」と言うと嫌な間が出来る。それを打ち消すように切り出す。「五人に何か共通点ってあるのかな。それって琴璃ちゃん調べたりしてもらえる?」
「いいですよ、全員学年は一緒だし難しくはないと思います。どのクラスも知ってる子いるし、明日学校行ったらあたってみますね」
 私と蒼井琴璃はお互いの連絡先を交換し、聞き込みを終えたら出向くという琴璃に事務所の住所も伝えるとまた私の体に眠気が負ぶさってくる。
 どろり。
 眠気を認識した途端に体も頭も瞼も重い。
「……するんで……のまえ…」
 え?何?
 それだけの言葉も出せずに私はテーブルに突っ伏す。その拍子に紅茶カップが倒れるのが分かる。あちゃあ。私は二つを同時に思う。紅茶が絨毯を汚してしまっていることと、紅茶を飲んでしまったことを。
 体を起こすことも瞼を開くこともままならない。紅茶は絨毯に、私に染み込んでいく。
 私の手から携帯電話が奪われ頭上に声がする。

「ごめん、千夜子さん寝ちゃったみたい。…そうだね、伝えておくよ」

 何で?
 私は何も言えない。完全にふぬべれへるばりんこ。
 そこで。

 パチン。

 真っ暗になる。
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