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千夜子-10

 しちし。
 発光する白い画面上に浮かぶ三つのひらがな。
 鬱蒼とした森=仄暗い由里音の部屋にへたり込んで、私はただその柔らかな曲線で構成された文字を眺めている。
 そして〈DAD〉=〈父親〉であるという安直過ぎる導きを疑ってみる。他に意味はないだろうか。〈しちし〉をそのまま〈74〉という数字に置き換えることも出来るけど、赤穂浪士は四十七人だしアリババの仲間もそんなに大勢いなかった。七月四日ならアメリカの独立記念日だけど、じゃあアメリカ大統領が犯人ですってことにはならない。
 この思考展開は無意味っぽい。思考の分散は判断力を鈍らせる。
 やはり〈しちし〉は〈DAD〉と読み解くのだ。それが流れだし、っていうかそう考えて進むしかないんだよ、ゴー、チヨコ、ゴー。
 とりあえず〈しちし〉=〈DAD〉で決定。そうなるとこれはやはり〈DAD〉=〈父親〉=〈仲村由基雄〉を示していると考えるのが妥当だ。つまり仲村由基雄は仲村由里音失踪に何らかの関与をしている。仮定を確定した仮定として進める。未成年の行方不明にその親が関わっている件は少なくない。どこかの国では自分の娘を二十数年監禁し、自らの子供(孫?)を何人も産ませていたというケースだってある。そんなの最悪なんだけど、常に最悪の事態を想定しておく必要はある。
 つまり、仲村由基雄によって由里音は監禁状態にある、という仮定。
 だとすると由里音捜索のために自宅に押し掛けた私たちは飛んで火にいる秋のボーイズ&ガールズで、仲村由基雄は私達を分断して先ず雀尊を襲い、次に私をこの部屋に閉じ込め、いずれ始末するつもりなのだ。
 いや、それは違う。
 仲村由基雄自身が犯人だとして、由里音の捜索を探偵事務所に依頼するメリットがあるだろうか。警察に捜索願いを出せばそれで済むはずだ。私たちがここに来ることくらい予測がつくわけだし、わざわざそんなリスクを冒す必要なんてない。
 腑に落ちない。まったく落ちてこない。
 〈GRIMM〉という言葉の次に提示されたのは〈DAD〉という言葉。グリム、そして、父親。
 グリム童話において〈父親〉というファクトはあまり重要視されていない気がする。グリム童話の悪役といえば大抵が母親、しかも圧倒的に継母が多い。白雪姫だって灰かぶり姫だって意地悪な継母にひどい目に遭わされるんだ。
 あれ?
 そういえば由里音の母親の姿がない。
 外出しているんだろうか。娘が失踪している状況でこんな時間まで家を空けるだろうか。夫一人を残して?
 それとも由里音の実の母親はすでに他界していて後妻である継母が夫の寵愛を一身に受けようと由里音を亡き者に?
 いや、すでに母親は由基雄の手によって命を奪われ……、ってノーーーーーーッ!やめやめやめ!
 なんだそれ?
 なんだ私それ?
 こんなの推理でも何でもない。戯れた頭の妄想だ。意味分かんない部屋に閉じ込められて意味分かんない言葉に悩んで頭の中こんがらがっちゃってるんだ、頭コンガラガールだ、答えなんか見つかるわけがない。
 いつのまにか私はまともな思考が出来なくなっている。
 私は零人のそれを真似て第一関節までしかない短い小指を口に含んでみる。ちうちうと吸うと私の味がする。私の皮膚と微かな血の味。ちうちうちうちう。私はそれをひと息に吸い上げる。ちうちうちうちう。息が詰まるまで吸い上げで、そこで大きく息をつく。
 それで私はきちんと私の中にすんと降りてくる。光が射す。リセット。
 あれこれ考えても仕方がない。
「とにかくこの部屋から出ないと」
 それが今の最優先事項だ。
 私はノートパソコンを探りコンセントを抜く。充電されているそれはすぐに消えることはない。私は液晶画面から漏れる光をライト代わりにして周囲を照らしてみる。
 森。
 私の目の前、斜めにせり上がった壁には先までずっと森が続いている。手を伸ばすとやはりそれは壁である。壁一面にトリックアートのような森が描かれている。うっかりすればそのまま吸い込まれていきそうな精巧な森がそこにはあった。
 他に何かないんだろうか。斜めになっている壁に気をつけながらゆっくりと立ち上がる。
 ドーン!
 静寂を打ち破ったのは凄まじい衝突音。
 続けざまに足先から脳天にかけて鈍痛が駆け抜ける。
「つうっ」
 私はノートパソコンを落としていた。忌々しくそれを足で払うとその場にかがみ込む。熱を持った激痛が足先で主張してくる。
 ドンッ!ドンドンッ!
 仲村由基雄だ。
 何か武器になる物はないか。とっさに床に手を這わせ、光を失ったノートパソコンを掴む。
 ドグーンッ!
 その音と共に扉は開かれる。
 逆光の中のシルエットが部屋に踏み込んでくる。
「千夜子さん!」
 雀尊の温かい手が私を掴む。

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