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千夜子-8

「ねえ、ここはどこなの?」

 辺りは靄がかかったようにうすぼんやりとしている。暖かくも寒くもなくて明るくも寒くもない場所。
「ここはお前の場所だよ」
 男の子が優しい口調で私に言う。小さな左手から彼の温度がすうんと伝わってきて私は落ち着く。
 零人。
 私はずっと零人と一緒だ。ずっと零人に頼りきっていた。ここに来てからずっと。私も零人も子供だし何も知らない。
「ねえ、パパはどこ?ママはどうしてここにいないの?」
「いるよ」。零人の声はそれでも優しい。「すぐ近くにいるよ。すぐ近くで僕らを見ている」
「いないよ!」
 自分の声が自分の中で反響する。その言葉が内側から私に染み込んでいき、それを事実だと私に認識させていく。
 パパもママもいない。
「いないよ!」
 パパとママはここにはいなくて私は一人ぼっちだ。私は零人と一人ぼっちだ。
「パパとママはすぐに戻るよ。ほら、言ってただろう、今は『かきいれどき』なんだ。だから『かきいれどき』が終わればパパとママはすぐに戻ってくる」
 零人の声はあくまで優しく語りかけてくる。
「そんなことない!私は捨てられたんだ!パパとママは私を捨てて笑ってるんだ!ああ良かった、あの子がいなくなってああ良かった、そう言ってどこかで私を笑ってるんだ!」
「そんなこと言うな!」
 零人の声が震えている。
「いない!いないよ!知ってるよそんなことは!でも言うな!言ったらもっと本当になるんだ!言ったら言っただけパパもママも本当にいなくなるんだ!」
 零人の言葉がじんじん響く。私の左手からじんじんじんじん熱を持って響いてくる。でも私にはその意味が分からなくて私は彼を見る。見下ろす。
 零人は私の左手にいる。
 私の左手の小指の先端に繋がった鞠くらいの大きさの零人の頭。まるで腹話術の人形みたいに私の小指から膨らんだ男の子は私を見上げている。
 零人。
「じゃあお前が探せよ!探せんのかよ!知ってんのかよ!知ってんなら見つけろよ!どうしちゃったんだよ、それがお前の役目だろ、…▲∋子!」
 え?
 何?
 聞こえないよ。

「……ん!………子さん!」

 聞こえないよ。

 声が大きくなる。


「千夜子さん!どうしちゃったんですか!千夜子アルフライラさん!」



 そうだ、私は千夜子。千夜子アルフライラ。

 だよね?

 私にそう言っているのは仲村由基雄だ。
「…ごめんなさい。ぼんやりしてました」
「大丈夫ですか? もう二週間くらいぼんやりしてますよ」
 二週間? 私そんなに長い間…。
「なわけないでしょ。どんだけぼんやりなんですか、それ。それよりですよ、聞いてるんですか?今の話」
「あ、はい、…いや、あ、聞いてないです」
「やっぱり。いいですか、僕はね怒っているんですよ」
 仲村由基雄はため息まじりに話し始めるけどその言葉も何だか薄皮一枚向こう側の世界の音みたいで私の周りを漂っているだけだ。何だろう、このぼんやり感。
「騙し討ちみたいな手を使っていきなり家に押し掛けて来るわ、勝手に家に上がり込むわ、何ですか?探偵ってのはそういう非常識振りかざしてそれが当たり前なんですかね?」
「…はぁ」
「そうですよ」
 私のぼんやりとした返事に雀尊≠零人が言葉をかぶせてくる。
「僕達は非・日常の事件を追っているんです。由里音さんの失踪を解明するには常識の範疇を超えた非・常識な思考が必要なんです」
「それにしたってアポくらい取ってくれればいいでしょう? まるで私を犯人扱いじゃないですか」
「その通り、あなたは犯人筆頭候補ですよ」
 唖然として言葉の出て来ない由基雄に対して雀尊は平然と続ける。
「こういったケースにおいて身内が被害者を軟禁又は監禁しておいて捜索依頼してくるというのが非常に多いんです。ですから先ずは由基雄さん、あなたを疑い、突然の訪問、つまり奇襲をかけたわけです。しかしそうではないようです」
「当たり前じゃないか」と呟く由基雄を無視するように雀尊が声を上げる。
「由里音ちゃーん!返事くださーい!」
 雀尊が階段近くの部屋のドアを叩き出すのを「大声出さないでくださいよ!」と由基雄が応酬する。「僕が由里音を…、そんなことするわけないじゃないですか」
 雀尊が言う。
「さあ、由里音さんの部屋を教えてください」
 私は階段を自然と上がり始める。
「階段をさらに上がった三階の部屋ですね」
 私は自分の言葉に驚きながらも階段を上がり続ける。三階に由里音の部屋がある。何故だかそんな感じがぼんやりとしたのだ。
 階段を上りきった三階は屋根が斜めに切れ込んだスペースで奥にドアがついている。
「ここね」
 左手でノブを掴むと小指がすうんと熱を持っているのが分かる。
 ドアには鍵がかかってなくスムーズに開く。


 ドアの向こうには鬱蒼と生い茂った………森?



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