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千夜子-7

 仲村由里音の家は天海町から天海橋を渡った吹斗市にある。
 吹斗市は吹斗ニュータウンを中心とした新興住宅地で、最近も巨大ショッピングモールが出来たりと拓けた街だ。吹斗市に建設中の超高層マンションの販促ポスターには『橋の向こうに未来が拡がる』なんて書いてあるけど、本当に橋の向こうに未来があるなら誰も必死こいて夢見たりはしないのだ。でも「のだ」とか言っといて実際ちょっと羨ましかったりはする。
 橋を隔てて吹斗と天海は対照的で、吹斗市が〈街〉なら天海町は文字通り〈町〉って風情で、良く言えば古き佳き町並みだけど、単純に開発されないままに置いていかれた廃れた町だ。その中でも築ウン十年の赤尾煙草店はウォシュレットないしお風呂も追い炊き出来ないし地震とかほんと怖い。まあ、双子探偵なんて胡散臭い輩には昭和にワープなレトロ建造物が丁度いいのかもしれないけど。なんかそれっぽいし。

 車が吹斗ニュータウンに入り、スピードを落としつつ進む。
 助手席の雀尊はニタニタと、どこか楽しげに見える。そこには私が感じているワクワクと同じような高揚があるのかもしれない。
 不謹慎かもしれないけど私は事件が舞い込んでくるとワクワクする。もちろんハッピーでない結末も多いけど、私は事件をきちんと完結させてやりたい。解決と完結では意味合いが違う。私は私の前に現れた事件をきっちりと昇華/成仏させてやる。
 それが探偵の為すべき仕事なのだ。

 仲村由里音の家はニュータウンの外れにあった。一度確認して通過、数件先にベベ子を静かに寄せる。片流れ屋根のモダンな三階建ての家には立派に門があり、表札に達筆な『仲村』の文字。
 雀尊を制するように私はダッシュボードの携帯を取りアドレス帳を開く。
「電話入れるよ」
 アドレス帳から引っ張り出した仲村由基雄の携帯電話に発信する。呼び出し音が鳴る間に雀尊が車内スピーカーに切り替える。
「はい、仲村です」
 仲村由基雄の声が車内に響く。遠くにテレビの音が聞き取れる。
「こんばんは。千夜子アルフライラです。先ほどはどうも」
「アルフライラさん。どうしました? 何か進展でも?」
「いや、さすがにそれは…。お話伺ったの今日の午後ですし」
「あ、そうですよね、そんなわけないか、いくら何でも早すぎますね、はは」
 スピーカーから聞こえる由基雄の落ち着いた声を、雀尊はへばりつくようにして聞いている。
 雀尊が私を見て小さく頷く。その左手はいつでも出ていけるようにドアに掛かっている。
「二三お聞きしたいことがありまして、っていうかお宅に伺って宜しいですか?っていうか由里音ちゃんの部屋を見せてもらえますか?」
「え? ああ、それは構いませんが」
「今ご在宅で?」
「ええ、…今から?」
「はい。今家の前ですから」
「いや、あの…」と逡巡する声を無視してそのまま車外に出る。雀尊は既に仲村邸の門前にいて私を待たずに呼び鈴を押す。ピンポーン。受話器の向こうでも同じ音がする。ピンポーン
「今開けますよ」と私に言っているのかドアの向こうに言っているのか分からない声を出す。
 ドアが開いて出て来た仲村由基雄は目の前の雀尊に驚いている。
「誰?」
 そう言う由基雄は淡い水色のパジャマ上下姿だ。豚のプリントが全面に入ったパジャマは昼間の印象とはかけ離れているけど案外似合ってて可愛い。
「連れです。夜分にすみません仲村さん」
 私が言うと由基雄は「いきなりなんで驚きましたよ。こちらこそこんな格好ですみませんね」と苦笑いしながら「どうぞ」と私達を促す。
「似合ってますよ」
「これ、父の日に由里音が作ってくれたんですよ」と見せた背中には野球のユニフォームのような『YUKIO 88』というバックプリントが入っている。
「パパだから88なんだそうです」
「優しい子なんですね由里音ちゃん」
「ええ、それはもう」
「あ」。頭を九十度傾げた雀尊が言う。「横にすると∞が並んでるみたいですね、由基雄無限大無限大だ」
「なるほど! 僕は無限大に愛情注いでますよ、無限大の無限大で!」と笑う由基雄の表情がみるみる曇っていく。「どうしてこんなことに…」

「見つけますよ。失くした悲しみってのは、逆に言えば取り戻した喜びに転化されるんです」

 そう言うと雀尊は靴を脱いで仲村家の階段を音を立てて上がっていく。
「由里音ちゃんの部屋は何階ですか? 片っ端から見て行きますかね」
 突然のことに仲村由基雄は階上の雀尊を見上げ、ようやく声を出した。
「あんた、誰なんだ?」
 雀尊が振り返る。

「俺は零人。千夜子の相棒です。仲村由里音ちゃんはチョコレート探偵が見つけ出します」

 何言っちゃってんだよお前は。
 それに応えるように雀尊がニッと笑う。
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