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零人-6

 屈木井九好のアパートは、天海稲荷駅から一駅挟んだ隣の天海本町駅の住宅街にある。
 零人は一度、天海稲荷商店街を抜け天海稲荷駅に出ると、そのまま線路沿いの路地を天海本町駅方面に向け歩く。
 その路地の街灯は壊れているのか、それとも節電の為か、その半分も燈されてはいず、残りも点滅していたり薄くしか燈ってなかったりで酷く暗い。
 零人は屈木井九好の部屋へ行く時はいつもその路地を使った。
「この路地は昼でも人気がなく、薄暗くて恐いから使わない様にしてるんだ」と屈木井九好はよく言た。
 でも、たかが三駅を電車で通うのも金の無駄だし、歩くならこの道が最も近道だからと、この路地を使い続ける零人に、屈木井九好は「危ないんだよ、こないだも女子高生が襲われて…」等と真剣にその路地の危険性を訴えた。
 ふと、そんなやり取りを零人は思い出し、あっ、これは思い出だ…と不意に気付く。
 確かに、それは思い出でだ。零人の持つ屈木井九好の思い出。
 ならば、さながらこの路地は思い出の小路か…。
 そんな事を考えながら歩いて行くと、路地が徐々に明るくなり次の上天海駅が見える。そのまま上天海駅を越える。そしてまた路地は暗くなる。続いて路地の先に天海本町駅が見え始める辺りで、零人は路地を離れ住宅街へ入る。
 たいした目印もない、似たり寄ったりの家屋が列ぶ住宅街を、零人は交差点の数と電柱の本数を頼りに進む。いくつかの角を曲がり、いくつかの電柱を通り過ぎ、零人は屈木井九好のアパートに着く。
 アイボリーの化粧タイル貼りの二階建アパートの階段を上り、零人は二階奥の二○三号室の前に立つ。
 外壁のタイルに合わせたアイボリーのドアに、零人はそっと耳を付けて室内の気配を探る。
 もしもの時を考えての行動、先程のチョコレート探偵事務所の二の舞は御免だ。
 室内に怪しげな気配のない事を確かめ、ドアノブを回し施錠を確認すると、零人は電気メーターの上を探り、埃に塗れた鍵を見付け出す。
 ここに合鍵がある事は予め知っていた。定番の隠し場所であるし、何よりいつでも自由に入れる様にと、屈木井九好が作った合鍵を零人自身がそこに隠したのだから、それは当たり前だ。
 零人は鍵と指先の埃をジャケットの裾で拭い鍵穴に鍵を差し込む。
 クンッというバネの感触と共にカチャンとシリンダーが回り鍵が外れる。ドアノブを捻りドアを開け玄関に入る。手探りでスイッチを探し室内灯を燈し、ブーツを脱ぎ部屋に上がる。
 綺麗に並べられたパンプス等の女物の履物の中で、無作法に脱ぎ捨てられた零人のブーツはやたらと場所を取る。その事に少し気遣い、零人は自分のブーツを揃えて置き直す。
 ワンルームの屈木井九好の部屋は、淡い色を中心にコーディネイトされ、きちんと片付けられている。
 部屋の中央に置かれた座卓の横に腰を下ろし、室内を見回す。
 零人が通っていた時からさした変化もない様に見える部屋は、例えば屈木井九好の失踪に関わる者がいたとして、その人物に荒らされた形跡もなければ、届けも出されていないから警察の捜査も入ってはいない。
 零人はジャケットの胸ポケットからタバコを取り出し火を着ける。
 一口煙を飲み、吐き出して、零人は室内を調べ始める。
 煙草を吸わない屈木井九好が、零人用に買ってきた小さな陶器の灰皿を片手に零人は室内を歩き回る。
 クリーム色の布団が掛かるベットには狸っぽい狐か犬のヌイグルミが一つ。カラーボックスには少女コミック等の漫画や、ハードカバーから文庫と種類や作風を問わない小説と、洋画邦画とこちらも作風を問わないDVDが列び、そのカラーボックスの上を鏡台代わりにして、化粧品やドライヤー等が整理され置かれている。クローゼット内は春夏秋冬の洋服が判り易くハンガーに架けられ、その下の箪笥型のプラスチックケースには、タオル、下着、靴下、トレーナー、Tシャツ、パジャマ、ジャージ、スエットと、これまた判り易く仕分けされ仕舞われている。カーテンは淡いオレンジ色。家電製品は決して最新型ではないが、それなりに時代の流れに乗った品物が丁寧に使われている。
 零人は続いてキッチンを調べる。冷蔵庫の中は必要量の食材しか入ってなく、一人暮らし故か少し淋しい。コンロも流しも綺麗に掃除されている。
 トイレとバスは別々。トイレには屈木井九好の好きな海外の古い女優のカレンダー、特に書き込み等はない。バスは湯舟は小さいが、洗面所一体型のバスルーム自体はそれなりに広い。そのどちらも、勿論清潔に掃除されている。
 零人は部屋に戻り、再度ざっと室内を調べる、ベット下の引き出しや、テレビ台の中や、あちこちに置かれた小物入れ等。そこで零人はカラーボックスの上の化粧ポーチ等に紛れた、辞典位の大きさの箱を見付ける。
 いかにも女の子の秘密が入ってそうな、玩具の南京錠で施錠された花柄の木彫りの箱。
 零人はその木箱を手に取ると、一端の躊躇の後、座卓のペン立てからボールペンを一本持って来て、南京錠の隙間に差し込み、こじる。
 パンと音が鳴り小さなネジが外れ、木箱は簡単に開く。
 中には数枚の写真が入っていた。
 家族や友達と思われる人達とのスナップ写真。それらに写る屈木井九好の顔は、時代毎に多少の変化はあったが、間違い様のない見慣れた彼女の顔だった。
 奇妙な感覚。
 さっきの電車の中ではあんなにも思い出せなかったのに。いざ、写真を見れば何て事もない見慣れた顔・・・。
 でも、その感覚は今は置いといて、零人はその写真を一通り調べる。
 その中には零人の写真も一枚あった、隠し撮り風の横顔のワンショット。
 そして、零人はその中の一枚に目を止める。
 是々絵利衣と屈木井九好の頬を寄せたバストアップのツーショット写真。
 自分達でシャッターを押したのだろう、笑う二人の顔は中心から酷くズレている。その背景には青空しかなく、そこには直接ピンクのポスターカラーで女の子っぽい文字が書き込まれている。

『ゼリーとクッキー』
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