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零人-8

 見覚えのある封筒。と言って封筒なんてどれを取っても似たり寄ったりだが。そういう意味ではなく、見覚えのある『INVITATION』という文字が印字された封筒。
 その封筒の中には零人の予想に反する事なく、二枚の紙が入っていた。
 一枚は少し厚めで、手触りのツルツルした葉書サイズの招待状。
 もう一枚は三つ折りにされた極一般的なB5サイズの手紙。
 薄暗い玄関でそれを確認すると、零人は玄関脇のスイッチで室内灯を燈し、その場に立ったままワープロ書きの読み覚えのある手紙に目を通す。

INVITATION

『Supreme Sweets Sanctuary
予てより皆様にご尽力いただいておりました”お菓子な家”が先日遂に完成の運びとなりました。
つきましては当お菓子な家にて落成記念式典を開催致したく、ご招待状をお送りさせていただきました。
貴方様の御来場を切に願っております。
あなたの思う場所で、あなたの思う時間にて・・・。
Sir Sevastian Speaker』


 手紙を読み終えた零人の唇がクイッと歪む。
 一見、笑っている様に見えて、その実、歯軋りの時のそれに見えなくもない表情。
 思わず笑いそうになる。が、笑う気になれない。笑い所は理解出来る。が、このセンスは理解出来ない。と、言うか、これは少し悪戯が過ぎるだろう。
 そう思いながら、零人はその葉書サイズの招待状のみをジャケットのポケットに仕舞うと、招待文の書かれた手紙と封筒は腹立ち紛れに一纏めに丸め、玄関から室内に放り投げる。
 あわよくば玄関を上がった正面の、応接机の脇の屑入れにホールインワンと行きたかった所だが、その丸められた紙屑は思いの外飛距離を延ばし、応接机を飛び越え、その先の零人の事務机の奥へカサッと音を立て落下した。
「チッ」
 零人は小さく舌打ち、ブーツを脱ぎ玄関を上がる。
 一度、事務机の奥へ回り込み、失投した紙屑を改めて屑入れヘ放り込むと、バフンとわざと大きな音を鳴らしてソファーに座り込む。
 深くソファーに身を沈め、応接机に足を放り投げる。
 それは零人の一番お気に入りのスタイル。
 チョコレート探偵事務所開業祝いに赤尾マスから贈られた、この柔らか過ぎるソファーも、零人が中古で買ってきた、ソファーのサイズに比べて些か背の高すぎるステンレス製の応接机も、このスタイルで座れば誂えた様にピッタリと体が納まる。
 ちん・・・とした気分が零人を包む。漢字で表記すると、沈・・・といった気分。
 スブズブとソファーに沈み込み、鼻っ面だけを外界に突き出して呼吸する。
 そんなイメージを頭に浮かべながら全身を弛緩させると、零人の体はより深くソファーに沈む。このソファーはその位に柔かい。
 ああ・・・やばい・・・。
 零人は睡眠と覚醒の狭間を自覚し、思う。
 まだ、寝ちゃ駄目だ。もう少し起きていなければ。今日中にやっておきたい事が、まだ幾つかある・・・腕時計の時間を合わせておきたい・・・赤尾マスが言っていた数件の電話の主も確認しなければ・・・留守電にメッセージが入ってるかもしれないし、メールかもしれない・・・それは・・・大事な、何かの、手掛かりかも、しれないし・・・それに・・・さっき見付けた招待状も・・・もう少し・・・。
 ガタタッ・・・。
 階下から物音。
 マスが帰宅したか・・・しかし、たかが夕飯の買い出しで、えらく時間が掛かったモノだ。あれから何時間・・・ところで結局、献立は何にしたのだろうか・・・ハンバーグ、コロッケ、カレー、それとも・・・その前に、部屋の中をちゃんと調べておこう・・・ここには・・・数時間前に不法の侵入者が・・・。
 トッ、トッ、トッ・・・。
 階段を昇る足音。
 そうか、夕飯か・・・わざわざ昇って来なくても、下から呼んでくれれば・・・しかし、もう食事の準備が出来たのか・・・なんだ、結局・・・あの婆さん・・・店屋物で済ましたか・・・ああ・・・うん、時計の時刻合わせは明日だ・・・この腕時計は、時刻合わせが面倒なんだ・・・操作マニュアルを読みながらでないと・・・着信の確認は食後・・・その前に・・・シャワーだ・・・頭をスッキリさせたい・・・。
 零人がゆっくり体を捻り反転させ、一階へ繋がる階段に目を向けると、階段から何者かが部屋に上がって来たのが見えた。
 階段奥の薄暗さを引きずる様に、全身に影を纏った。というか、まるで影そのものの様な男。
 ・・・男?いや、女?判らない。
 なんせ、そいつは室内灯に十分照らされた場所にいて、全身を真っ黒な影に包まれたのっぺら坊の影人間なのだから。
 しかし、その影人間が赤尾マスでない事はハッキリしている。
 赤尾マスにしては体が大き過ぎるし、何より赤尾マスは紫色の日本髪で小豆色の上下揃いのジャージがトレードマーク。
 では、この影人間は?
 影人間はゆっくりと零人の側迄近付き、両手を頭の上で繋ぎ、腕で『○』の形を作った。
 零人はその『○』をぼんやりと眺める。
 いや、『○』じゃない。林檎?いや、梨?まぁ、どちらでも同じか。『○』のてっぺんにヘタが付いている。調度、頭上で繋がれた手の辺りからヘタが一本はえている。
 ヘタ・・・棒・・・棒!?
「ワッ」零人は咄嗟に身を翻す。
 パーン!
 零人の頭の横を通り、金属バットがソファーの背もたれにめり込む。
 次の瞬間、その金属バットが零人の顔面へ飛び掛かってくる。
 ギリギリで振り上げた左腕でなんとか金属バットの顔面直撃は回避した。が、その代償に左腕に電撃の様な激痛が走る。
「ヒッ」と悲鳴を上げ、転げる様にソファーから離れる零人の頭に『?』マークが溢れる。
 え?え?え?何?何故?誰?
 俊敏に動き反撃に移りたいのに、体が重い。腰が立たない。手足が震える。
 零人の肩先をチッと金属バットが掠め、床を強く打つ。
 ガキーン!
「ヒヒーッ!」
 零人はその音に身を竦め、体を丸め耳を塞ぐ。
 そして、零人の頭の『?』マークが一気に飛散してその中から真っ白い光が溢れる。

 嫌だ!怖いんだ!痛いのは怖いんだ!嫌なんだ!痛いのだけは!

 暗転。
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千夜子-8

「ねえ、ここはどこなの?」

 辺りは靄がかかったようにうすぼんやりとしている。暖かくも寒くもなくて明るくも寒くもない場所。
「ここはお前の場所だよ」
 男の子が優しい口調で私に言う。小さな左手から彼の温度がすうんと伝わってきて私は落ち着く。
 零人。
 私はずっと零人と一緒だ。ずっと零人に頼りきっていた。ここに来てからずっと。私も零人も子供だし何も知らない。
「ねえ、パパはどこ?ママはどうしてここにいないの?」
「いるよ」。零人の声はそれでも優しい。「すぐ近くにいるよ。すぐ近くで僕らを見ている」
「いないよ!」
 自分の声が自分の中で反響する。その言葉が内側から私に染み込んでいき、それを事実だと私に認識させていく。
 パパもママもいない。
「いないよ!」
 パパとママはここにはいなくて私は一人ぼっちだ。私は零人と一人ぼっちだ。
「パパとママはすぐに戻るよ。ほら、言ってただろう、今は『かきいれどき』なんだ。だから『かきいれどき』が終わればパパとママはすぐに戻ってくる」
 零人の声はあくまで優しく語りかけてくる。
「そんなことない!私は捨てられたんだ!パパとママは私を捨てて笑ってるんだ!ああ良かった、あの子がいなくなってああ良かった、そう言ってどこかで私を笑ってるんだ!」
「そんなこと言うな!」
 零人の声が震えている。
「いない!いないよ!知ってるよそんなことは!でも言うな!言ったらもっと本当になるんだ!言ったら言っただけパパもママも本当にいなくなるんだ!」
 零人の言葉がじんじん響く。私の左手からじんじんじんじん熱を持って響いてくる。でも私にはその意味が分からなくて私は彼を見る。見下ろす。
 零人は私の左手にいる。
 私の左手の小指の先端に繋がった鞠くらいの大きさの零人の頭。まるで腹話術の人形みたいに私の小指から膨らんだ男の子は私を見上げている。
 零人。
「じゃあお前が探せよ!探せんのかよ!知ってんのかよ!知ってんなら見つけろよ!どうしちゃったんだよ、それがお前の役目だろ、…▲∋子!」
 え?
 何?
 聞こえないよ。

「……ん!………子さん!」

 聞こえないよ。

 声が大きくなる。


「千夜子さん!どうしちゃったんですか!千夜子アルフライラさん!」



 そうだ、私は千夜子。千夜子アルフライラ。

 だよね?

 私にそう言っているのは仲村由基雄だ。
「…ごめんなさい。ぼんやりしてました」
「大丈夫ですか? もう二週間くらいぼんやりしてますよ」
 二週間? 私そんなに長い間…。
「なわけないでしょ。どんだけぼんやりなんですか、それ。それよりですよ、聞いてるんですか?今の話」
「あ、はい、…いや、あ、聞いてないです」
「やっぱり。いいですか、僕はね怒っているんですよ」
 仲村由基雄はため息まじりに話し始めるけどその言葉も何だか薄皮一枚向こう側の世界の音みたいで私の周りを漂っているだけだ。何だろう、このぼんやり感。
「騙し討ちみたいな手を使っていきなり家に押し掛けて来るわ、勝手に家に上がり込むわ、何ですか?探偵ってのはそういう非常識振りかざしてそれが当たり前なんですかね?」
「…はぁ」
「そうですよ」
 私のぼんやりとした返事に雀尊≠零人が言葉をかぶせてくる。
「僕達は非・日常の事件を追っているんです。由里音さんの失踪を解明するには常識の範疇を超えた非・常識な思考が必要なんです」
「それにしたってアポくらい取ってくれればいいでしょう? まるで私を犯人扱いじゃないですか」
「その通り、あなたは犯人筆頭候補ですよ」
 唖然として言葉の出て来ない由基雄に対して雀尊は平然と続ける。
「こういったケースにおいて身内が被害者を軟禁又は監禁しておいて捜索依頼してくるというのが非常に多いんです。ですから先ずは由基雄さん、あなたを疑い、突然の訪問、つまり奇襲をかけたわけです。しかしそうではないようです」
「当たり前じゃないか」と呟く由基雄を無視するように雀尊が声を上げる。
「由里音ちゃーん!返事くださーい!」
 雀尊が階段近くの部屋のドアを叩き出すのを「大声出さないでくださいよ!」と由基雄が応酬する。「僕が由里音を…、そんなことするわけないじゃないですか」
 雀尊が言う。
「さあ、由里音さんの部屋を教えてください」
 私は階段を自然と上がり始める。
「階段をさらに上がった三階の部屋ですね」
 私は自分の言葉に驚きながらも階段を上がり続ける。三階に由里音の部屋がある。何故だかそんな感じがぼんやりとしたのだ。
 階段を上りきった三階は屋根が斜めに切れ込んだスペースで奥にドアがついている。
「ここね」
 左手でノブを掴むと小指がすうんと熱を持っているのが分かる。
 ドアには鍵がかかってなくスムーズに開く。


 ドアの向こうには鬱蒼と生い茂った………森?



 

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